個人事業主・小規模事業者に勤怠管理の義務はある?「客観的な記録」が必要な理由
「従業員は3人だけ」「うちは個人事業だから」——そうした規模でも、人を雇っている以上、労働時間を記録して残す義務があります。しかも 2019 年の法改正で、その方法には「客観的であること」という条件が付きました。
この記事では、小規模な事業者が押さえておくべき最低ラインを、根拠の条文とあわせて整理します。
義務の対象になるのは「人を雇っているかどうか」だけ
労働基準法や労働安全衛生法が適用されるかどうかは、法人か個人事業か、従業員が何人かでは決まりません。労働者を1人でも使用していれば適用事業になります。
つまり、以下はすべて対象です。
- 従業員が1〜数人の個人事業
- 家族以外にアルバイトを1人雇っている店舗
- 役員のほかに従業員が数名いる小規模法人
逆に、同居の親族のみを使用する事業や、事業主本人だけの事業は労働者がいないため対象外です。業務委託先も労働者ではありません(ただし実態が指揮命令下の労働であれば労働者と判断されることがあり、契約書の名称だけでは決まりません)。
2019年から「客観的な記録」が求められている
労働時間の把握については、2つの層があります。
1. 労働安全衛生法による「労働時間の状況の把握」義務
働き方改革関連法により、2019年4月から労働安全衛生法 第66条の8の3が施行されました。事業者は、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと定めています。
そして厚生労働省令で、その方法はタイムカードによる記録、パソコンなどの電子計算機の使用時間の記録、その他の適切な方法とされました。ここが重要で、いわゆる「客観的な方法」による把握が原則になっています。
この義務は、管理監督者や裁量労働制の対象者も含めて、ほぼすべての労働者が対象です。「管理職だから記録しなくていい」は誤りです。
2. 厚生労働省のガイドラインによる「適正な把握」
2017年に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、始業・終業時刻の確認方法として次のいずれかを原則としています。
- 使用者が自ら現認して記録する
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録を基礎として確認する
自己申告制は例外扱いで、やむを得ず採用する場合は、実態調査や乖離の確認など追加の措置が求められます。
要するに、「本人が手書きで出した紙をそのまま信じる」運用は、法令上は例外的な扱いということです。
何を、どれだけ残す必要があるか
| 記録 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 労働時間の状況 | 労働安全衛生法 第66条の8の3 | 客観的な方法による労働時間の把握 |
| 賃金台帳 | 労働基準法 第108条 | 労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜労働の時間数など |
| 記録の保存 | 労働基準法 第109条 | 賃金台帳や出勤簿などを**5年間(当分の間は3年間)**保存 |
保存期間は 2020 年 4 月の改正で 3 年から 5 年に延長されましたが、経過措置により当分の間は 3 年とされています。最低3年は確実に必要と考えて運用するのが安全です。
なお賃金請求権の消滅時効も同じ改正で 5 年(当分の間 3 年)になりました。未払い残業を請求された場合、さかのぼって争える期間が長くなっているという点で、記録の重要性は以前より上がっています。
記録がないと、何が起きるか
義務違反そのものへの罰則もありますが、実務で効いてくるのはむしろ次の3つです。
1. 未払い残業を請求されたときに反証できない
労働時間の記録は、本来は使用者が持っているべきものです。それが無い、または不正確な場合、労働者側が出した手帳やスマートフォンの記録、入退館ログなどが採用されることがあります。「記録がない」は事業者にとって不利に働きます。
2. 年5日の有給休暇取得義務に対応できない
2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、年5日は確実に取得させることが使用者の義務になりました。誰にいつ何日付与し、何日取得したかを管理していなければ、この義務は果たせません。パート・アルバイトでも、勤続年数と週の所定労働日数によっては年10日以上付与される点に注意が必要です。
3. 労働基準監督署の調査で最初に求められる
臨検の際、出勤簿・賃金台帳・36協定は基本的な確認対象です。すぐに提示できる状態にあるかどうかで、その後の進み方が変わります。
小規模事業者が現実的にとれる選択肢
| 方法 | 客観性 | 集計の手間 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 手書きの出勤簿 | 低い(自己申告) | 大きい | 積極的に選ぶ理由は乏しい |
| Excel に本人が入力 | 低い(自己申告) | 中〜大 | 人数が少なく、当面のつなぎ |
| タイムカード(打刻機) | 高い | 大きい(手集計) | 全員が同じ場所に出勤する |
| クラウド勤怠管理 | 高い | 小さい | 直行直帰・複数拠点・少人数 |
タイムカードは客観性という点では問題ありませんが、月末に紙を集めて電卓で集計する作業が残ります。従業員が10人いれば、毎月それなりの時間が消えていきます。
クラウド型は打刻がそのまま記録として残り、集計まで自動で終わるため、人数が少ないほど「本業の時間を削らない」効果が大きく出ます。
よくある質問
従業員が1人でも勤怠管理は必要ですか?
必要です。労働基準法や労働安全衛生法は、労働者を1人でも使用していれば適用されます。事業の規模や、法人か個人事業かは要件になっていません。
アルバイト・パートも記録の対象になりますか?
対象になります。雇用形態にかかわらず労働者であれば労働時間の把握が必要で、賃金台帳にも労働日数・労働時間数を記載する必要があります。年次有給休暇についても、勤続年数と週の所定労働日数に応じて付与義務が生じます。
手書きの出勤簿やExcelへの自己申告ではだめですか?
直ちに違法と断定されるものではありませんが、厚生労働省のガイドラインでは自己申告制は例外的な方法とされており、採用する場合は実態調査などの追加措置が求められます。原則は客観的な記録による把握です。
記録は何年保存すればよいですか?
労働基準法第109条により5年間の保存が必要ですが、経過措置により当分の間は3年間とされています。最低でも3年は確実に保存できる形にしておくのが安全です。
社長や役員の労働時間も記録が必要ですか?
労働者にあたらない役員は対象外です。ただし、労働安全衛生法による労働時間の状況の把握は、管理監督者を含むほぼすべての労働者が対象です。「管理職だから不要」という整理は誤りです。
本記事は 2026年8月時点で公開されている法令・ガイドラインをもとに、一般的な情報として整理したものです。個別の事情に対する判断や最新の改正内容については、厚生労働省の公表資料をご確認いただくか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。