従業員にメールアドレスがなくても勤怠管理システムは使えるか
「システムを入れようとしたら、従業員一人ひとりのメールアドレスを登録してくださいと言われた」——小規模事業者の導入がここで止まることがあります。
会社のメールアドレスを全員分持っている職場は、そう多くありません。特にパート・アルバイトが中心の飲食店・小売店・クリニックでは、そもそも従業員にアドレスを配る仕組みがないのが普通です。かといって個人のアドレスを聞いて回るのは、頼む側にも頼まれる側にも抵抗があります。
この記事は、その状況で何を確認すればよいかをまとめたものです。
なぜメールアドレスを求められるのか
勤怠管理システムがメールアドレスを使う場面は、大きく3つあります。
| 用途 | 必須になりやすさ | 代替手段 |
|---|---|---|
| ログインIDとして使う | 製品による | 社員番号や任意のIDでログインする方式 |
| パスワードを忘れたときの再設定 | 製品による | 管理者が再設定する方式 |
| 申請・承認の通知 | 任意であることが多い | 画面上の通知、または通知を使わない運用 |
このうち、仕組みとして本当に代替が難しいのは2番目だけです。パスワードを忘れた本人に、本人だと確認したうえで再設定させる手段として、メールは最も手軽です。
逆に言えば、「管理者が再設定してあげる」運用が許容できるなら、従業員のメールアドレスは無くても成立します。小規模事業者では、そもそも管理者と従業員が同じ場所にいるため、この運用は現実的です。
確認すべきこと
製品の紹介ページには「メールアドレスが必須かどうか」はまず書かれていません。次の4点を、契約前に問い合わせるか、無料期間中に実際に試して確認してください。
0. 同姓同名の従業員を登録できるか
意外と見落とされる点です。氏名だけで従業員を識別する作りだと、同姓同名の2人を登録した時点でどちらの記録か分からなくなります。社員番号など、氏名とは別の識別子を持てる製品かどうかを確認してください。帳簿やCSVにその番号が出るかどうかも、給与計算との突合で効いてきます。
1. 従業員の登録にメールアドレスの入力欄が必須か
無料期間中に従業員を1人、メールアドレスを空欄にして登録してみるのが確実です。エラーになるかどうかで一発で分かります。
2. 従業員のログイン方法
メールアドレスでログインする方式だと、アドレスなしの登録ができても結局ログインできません。メールアドレス以外のIDでログインできるかを確認してください。
3. パスワードを忘れたときにどうなるか
管理者が再設定できる製品と、本人のメール宛のリンクからしか再設定できない製品があります。後者だと、アドレスのない従業員は一度パスワードを忘れた時点で詰みます。
個人のメールアドレスを使う場合の注意
「全員に個人のアドレスを出してもらう」という判断も可能ですが、事前に整理しておくべき点があります。
業務外の連絡先を業務に使うことになります。 個人のアドレスは従業員の個人情報であり、収集する以上は利用目的を伝える必要があります。また退職後にアカウントを残したままにすると、退職者の個人情報を保持し続けることになります。
提出を拒む人が出ます。 拒否されたときに「その人だけ紙で打刻」という運用にすると、集計が二本立てになり、システムを入れた意味が薄れます。
アドレスが変わったときに気づけません。 個人のアドレスは会社が管理していないため、変更されても分からず、通知だけが静かに届かなくなります。
導入前に全員分を集める作業そのものも、意外と時間がかかります。1人でも未提出だと運用を始められないためです。
打刻する端末も一緒に確認する
メールアドレスと同じ理由でつまずくのが、打刻に使う端末です。全員がスマートフォンを持っている前提の製品が多いからです。
- 各自のスマートフォンで打刻する場合、私物を業務に使うことへの同意が要ります
- スマートフォンを持たない従業員がいる場合、共用端末での打刻に対応した製品を選ぶ必要があります
- 共用端末に対応していない製品では、1台を全員で使おうとすると打刻のたびにログインし直すことになります
紙のタイムカードには「その場所に来ないと打刻できない」という性質があり、これは出勤の事実を裏づける仕組みとして機能していました。各自のスマートフォンで打刻する方式に変えると、この性質は失われます。どちらを取るかは職場によって答えが変わります(紙のタイムカードをやめる手順)。
キンログの場合
参考として、当社が提供しているキンログの扱いを具体的に書きます。
従業員の登録にメールアドレスは必要ありません。 必須なのは氏名・ログインID・パスワードの3つだけで、メールアドレスの欄は空のままで登録できます。ログインはそのIDで行います。
メールアドレスが必要なのは、事業者として最初にアカウントを作る方(管理者)だけです。 登録の確認メールを受け取る必要があるためで、これは1つあれば足ります。
打刻の方法は各自のスマートフォンかパソコンのブラウザです。1台の端末を全員で共有する打刻専用モードには対応していません。 全員が同じ場所に出勤し、共用の端末1台で打刻したい職場には向きません。ICカードや生体認証にも対応していません。
退職者は「退職」で外します。 従業員が辞めたときは退職の操作を行うと、ログインができなくなり、翌月からの請求人数にも含まれなくなります。打刻記録・有給の残数・申請の履歴はそのまま残ります。 復職させることもできます。
アカウントを完全に削除する操作も用意していますが、こちらはその従業員の記録も一緒に消えます。労働時間の記録には保存義務があるため、使う前に必ず勤怠データを出力して保管してください。
料金は10名まで月額1,000円(税抜)、11名目以降は1人あたり100円の加算です。初期費用と最低利用人数はなく、14日間の無料期間はクレジットカードの登録なしで始められます。設定については 勤怠管理システムの初期設定は何をするのか に書いたとおりで、登録した時点で休暇種別や勤務時間の初期値が入っているため、そのまま打刻できます。
よくある質問
従業員のメールアドレスなしで、有給の申請や承認はできますか?
製品によります。通知をメールで送る設計だとアドレスが要りますが、画面上で申請・承認が完結する製品なら不要です。確認するときは「通知が届かないだけで、申請そのものはできるか」を聞くと分かりやすくなります。
1つのメールアドレスを全員で共有してはいけませんか?
技術的に登録できる製品もありますが、おすすめしません。パスワード再設定のリンクが全員に届くことになり、他人のアカウントのパスワードを変更できる状態が生まれます。労働時間の記録は本人が打刻したことに意味があるため、この状態は記録の信頼性を損ないます。
後からメールアドレスを追加できますか?
多くの製品で後から登録できます。まずアドレスなしで運用を始め、必要になった人だけ追加するという進め方も可能です。
退職した従業員のアカウントはどうなりますか?
製品によって、削除する方式と無効化して記録を残す方式があります。労働時間の記録には保存義務があるため、アカウントを削除したときに過去の打刻記録まで消えないかは、製品を問わず確認しておくべき点です。消える仕様の製品では、削除の前にその従業員の記録を出力して保管してください。
あわせて、退職者が請求人数に含まれ続けないかも確認しておくとよい点です。記録を残すと課金され続ける仕組みだと、費用を抑えるために記録を消すという判断につながります。
本記事は 2026年8月時点の情報をもとに一般的な整理を行ったものです。各製品の料金・機能は変更されることがあるため、実際の内容は各社の公式サイトでご確認ください。法令の解釈や個別の事情については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。