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「客観的な記録」とは何か|厚労省ガイドラインが認める方法と、自己申告が例外になる理由

法対応

労働時間の管理について調べると「客観的な記録が必要」という表現に必ず行き当たります。ただ、何をもって客観的とするのかは、条文を読まないと分かりにくいところです。

この記事では、その中身を整理します。

根拠は2つある

1. 厚生労働省のガイドライン(2017年)

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」。使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することとされ、その確認方法として次のいずれかを原則としています。

2. 労働安全衛生法 第66条の8の3(2019年施行)

働き方改革関連法により新設された条文で、事業者は労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと定めています。厚生労働省令では、その方法をタイムカードによる記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録、その他の適切な方法としています。

この義務は、管理監督者や裁量労働制の対象者も含めてほぼすべての労働者が対象です。「管理職だから記録は不要」という整理は誤りです。

何が「客観的な記録」にあたるか

条文と通達から整理すると、こう分かれます。

方法 客観的か 補足
タイムカード(打刻機) 打刻した事実が残る
ICカード・カードリーダー 入退室記録として使う場合も含む
パソコンのログオン・ログオフ記録 省令が明示している方法
クラウド勤怠システムでの打刻 打刻時刻がそのまま記録される
使用者による現認 ただし人数が増えると現実的でない
本人が手書きで出す出勤簿 ×(自己申告) 例外扱い
本人が後からExcelに入力 ×(自己申告) 例外扱い

分かれ目は「誰が、いつ記録したか」です。

働いたその時点で、本人の記憶や判断を介さずに残るものが客観的な記録です。逆に、後から本人が思い出して書くものは、どれだけ正確に書かれていても仕組みとしては自己申告になります。

手書きの出勤簿でも、出勤したその場で本人が記入し、使用者がその場で確認しているなら現認に近づきます。ただし人数が増えるほど運用が持ちません。

自己申告制は「禁止」ではなく「例外」

よくある誤解ですが、自己申告制が違法とされているわけではありません。やむを得ず採用する場合には追加の措置が求められる、という位置づけです。

ガイドラインが求めているのは、主に次の内容です。

  1. 対象となる労働者に、自己申告制の適正な運用について十分に説明する
  2. 実際に労働時間を管理する者に対しても、ガイドラインに基づく措置等について十分に説明する
  3. 自己申告した労働時間と実際の労働時間が合致しているか、必要に応じて実態調査を行い、補正する
  4. 入退場記録やパソコンの使用時間の記録がある場合、それと自己申告に著しい乖離があるときは実態調査を行う
  5. 適正な申告を阻害する措置を設けない(時間外労働の上限を設定し、その範囲を超える申告を認めない、といった運用をしない)

3と4が実質的な負担です。**「自己申告でよいが、その正しさを別途確かめること」**を求めているので、結局は客観的な記録が必要になる場面が出てきます。

なぜここが重要なのか

義務違反そのものより、実務で効いてくるのは次の点です。

未払い残業を請求されたときの立場が変わります。

労働時間の記録は、本来は使用者が持っているべきものです。それが無い、あるいは自己申告だけで裏付けがない場合、労働者側が提出した手帳・スマートフォンの記録・入退館ログなどが採用されることがあります。

賃金請求権の消滅時効は、2020年4月の改正で**5年(当分の間は3年)**になりました。さかのぼって争える期間が延びた分、記録の有無が及ぼす影響は以前より大きくなっています。

記録して、保存するまでが1セット

記録を取っても、残していなければ意味がありません。

対象 根拠 期間
賃金台帳 労働基準法 第108条 5年(当分の間3年)
タイムカード・出勤簿等 労働基準法 第109条 5年(当分の間3年)
年次有給休暇管理簿 労働基準法施行規則 第24条の7 3年

賃金台帳には、労働日数・労働時間数のほか、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数を記載する必要があります。総労働時間だけを記録していると、この区分が作れません。

小規模事業者にとっての現実解

現認は人数が増えると持たず、自己申告は追加の措置が必要になります。残るのは、打刻がそのまま記録として残る仕組みです。

タイムカードでも要件は満たせますが、集計が手作業で残ります(紙のタイムカードをやめる手順)。クラウド型であれば、打刻がそのまま記録になり、区分ごとの集計と保存まで通しで扱えます。

義務の全体像については 個人事業主・小規模事業者に勤怠管理の義務はある? を参照してください。

よくある質問

手書きの出勤簿は客観的な記録になりますか?

本人が後から記入するものは自己申告制にあたり、客観的な記録とは区別されます。出勤したその場で記入し、使用者がその場で確認している場合は現認に近い運用になりますが、人数が増えると維持が難しくなります。

自己申告制は禁止されているのですか?

禁止ではありません。ただし例外的な方法とされ、採用する場合は労働者への十分な説明、実態調査による確認と補正、適正な申告を阻害する措置を設けないことなどが求められます。

パソコンのログオン・ログオフ記録だけでよいですか?

厚生労働省令が例示している方法の一つです。ただし始業・終業時刻と乖離する場合(先にパソコンを立ち上げて別作業をしている、退勤後にログオフし忘れる等)があるため、実態と合っているかの確認は必要です。

管理職の労働時間も記録が必要ですか?

必要です。労働基準法上の管理監督者は労働時間・休憩・休日の規定の適用が除外されますが、労働安全衛生法第66条の8の3による労働時間の状況の把握は管理監督者も対象です。深夜割増賃金の適用もあるため、記録は必要になります。

記録は紙で保存しないといけませんか?

紙である必要はありません。必要なときに出力・提示できる状態であれば、システム上のデータとして保存しても差し支えありません。


本記事は 2026年8月時点で公開されている法令・ガイドラインをもとに、一般的な情報として整理したものです。個別の事情に対する判断や最新の改正内容については、厚生労働省の公表資料をご確認いただくか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。