退職した従業員の勤怠記録はどう扱うか|保存の考え方とアカウントの整理
従業員が辞めたとき、勤怠管理システム上でその人のアカウントをどうするか。「もういないから消す」で処理してしまいがちですが、ここは一度立ち止まる価値があります。
消し方によっては、残しておかなければならない記録まで一緒に消えることがあるためです。しかも消えたことに気づくのは、たいてい必要になった時です。
まず、いつまで残す必要があるか
労働時間の記録には保存義務があり、**5年間(経過措置により当分の間は3年間)**とされています。退職したからといって短くなるものではありません(個人事業主・小規模事業者に勤怠管理の義務はある?)。
起算日は記録の種類ごとに決まっており、出勤簿であれば最後に記入した日が起点になります。つまり退職者の記録は、退職日からさらに数年手元に置いておく前提になります。
実務としては「最低3年は確実に出せる状態にしておく」と考えておけば大きく外しません。
退職者の記録が必要になる場面は実際にあります。未払い残業の請求、労基署の調査、助成金の申請、離職票に関する照会など、いずれも辞めた後に発生します。
システム上のアカウントをどうするか
ここが本題です。製品によって作りが分かれます。
| 方式 | 記録 | ログイン | 料金 |
|---|---|---|---|
| 退職・無効化 | 残る | できない | 対象外になる製品が多い |
| 削除 | 一緒に消える製品がある | できない | 対象外になる |
確認すべきなのは、削除したときに過去の打刻記録まで消えるかどうかです。ここは製品の紹介ページにはまず書かれていません。
無料期間中に試すなら、テスト用の従業員を1人作り、打刻を数件入れてから削除し、その打刻記録が勤怠のエクスポートから消えるかどうかを見るのが確実です。
「消えるから残しておく」が招く別の問題
記録を守るためにアカウントを残す判断は正しいのですが、そこで次の問題が出ます。
多くの勤怠管理システムは登録人数で課金します。 退職者のアカウントを残すと、その人のぶんの料金が発生し続ける製品があります。
すると、こういう選択を迫られます。
- 記録を守る → 辞めた人のぶんも払い続ける
- 費用を抑える → 記録を消す
この二択が発生する製品は、構造として記録の破棄を促していることになります。 契約前に「退職者を在籍から外しても記録は残るか」「その場合に課金対象から外れるか」の2点を、セットで確認してください。
退職の前後にやること
1. 退職前:本人の記録を出力しておく
退職日を待たずに、その人の勤怠データをCSVで出力して保管しておくと確実です。システムの仕様がどうであれ、手元にファイルがあれば保存義務は満たせます。
有給の付与と取得の記録も同様です。年次有給休暇管理簿は作成と保存の義務があります(年5日の有給休暇取得義務)。
2. 退職日:アカウントを在籍から外す
ログインできる状態を残さないことが目的です。退職者が自分の打刻画面に入れる状態は、記録の信頼性という点で望ましくありません。
私物のスマートフォンで打刻していた場合は、この処理をもって業務利用が終わります。 端末側でホーム画面から削除してもらう案内も一緒に出しておくと親切です。
3. 退職後:保存期間が過ぎたら消す
個人情報は必要がなくなれば消すのが原則です。保存義務の期間を過ぎた記録を持ち続ける積極的な理由はありません。
ただし**「もう不要」と判断してから消す**のと、退職の当日に勢いで消すのは別物です。前者は判断ですが、後者はたいてい取り返しがつきません。
同姓同名がいる場合の注意
小さな職場でも起こります。氏名だけで記録を管理していると、同姓同名の従業員が過去にいた時点で、どちらの記録か判別できなくなります。
退職者が絡むと厄介さが増します。辞めた田中さんと、その後に入った田中さんの記録が、氏名だけのCSVでは区別できません。
社員番号のように氏名とは別の識別子を持てる製品を選び、それが帳簿やCSVにも出力されることを確認しておいてください。あわせて、退職者が使っていた番号を新しい従業員に使い回さない運用にしておくと、過去の記録の帰属が曖昧になりません。
キンログの場合
参考として、当社が提供しているキンログの扱いを書きます。
退職の操作があります。 退職にすると、ログインができなくなり、翌月からの請求人数に含まれなくなります。打刻記録・有給の付与と残数・申請の履歴はそのまま残り、後から出力できます。復職させることもできます。
つまり記録を残すことと費用を抑えることが両立します。上に書いた二択にはなりません。
アカウントを完全に削除する操作も別に用意しています。 こちらは打刻記録も一緒に消えるため、削除前に「打刻記録◯件(期間)」を画面に表示して確認を求めます。保存期間が過ぎた後や、個人情報の削除を求められたときに使う操作という位置づけです。
社員番号があります。 会社ごとに一意の番号で、勤怠CSV・出勤簿PDF・年次有給休暇管理簿のいずれにも出力されます。退職者が使った番号は再利用できません。 同姓同名の従業員がいても、記録の帰属が曖昧になりません。
料金は10名まで月額1,000円(税抜)、11名目以降は1人あたり100円の加算です。初期費用と最低利用人数はなく、14日間の無料期間はクレジットカードの登録なしで始められます。
なお、打刻は各自のスマートフォンかパソコンから行う形で、共用端末での打刻専用モードには対応していません(勤怠打刻をスマートフォンに切り替える)。
よくある質問
退職者のアカウントを残しておくと、その人はログインできますか?
製品によります。無効化する仕組みがあれば、記録を残したままログインだけを止められます。「残す=ログインできる状態のまま」しか選べない製品は避けてください。 退職者が自分の打刻を触れる状態は、記録の信頼性を損ないます。
退職者のぶんも料金がかかりますか?
登録人数で課金する製品では、残し方によってはかかります。「在籍から外しても記録は残るか」「その場合に課金対象から外れるか」をセットで確認してください。
紙のタイムカードの場合はどうすればよいですか?
保存義務は同じです。退職者のカードを抜き出して、保存期間が分かる形で保管してください。システムへ移行する場合も、過去の紙は捨てずに残します(紙のタイムカードをやめる手順)。
退職者の記録をエクスポートしたいのですが、対象に出てきません
在籍者だけを対象にしている製品があります。退職者を含めて出力できるかは、実際に退職処理をした後で試してみるのが確実です。無料期間中に確認しておくべき点の一つです。
再雇用した場合はどうなりますか?
同じアカウントを復活できる製品なら、過去の記録と地続きになります。新しいアカウントを作り直すと、同じ人の記録が2つに分かれます。有給の勤続年数を判断するときに影響するため、再雇用の可能性がある職場では確認しておいてください。
本記事は 2026年8月時点の情報をもとに一般的な整理を行ったものです。各製品の料金・機能は変更されることがあるため、実際の内容は各社の公式サイトでご確認ください。法令の解釈や個別の事情については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。